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はじめに

がんは先進諸国における最大の死亡原因であり、全世界で毎年約 700 万人ががんで命を落としています。我が国でも死因の第一位はがんであり、日本人男性の 2 人に 1 人、女性の 3 人に 1 人ががんで亡くなる現状にあります。がんの制圧は人類最大の悲願のひとつであり、特効的ながん予防法・治療法の開発はがん研究の最終的目標の一つです。然るに、がんの治療原理の確立という観点から見ると、旧来の外科療法や非特異的細胞毒(制がん剤)を用いる化学療法は既に技術的限界の域に達しつつあり、がんという疾患のより本質的な理解を背景にした理論的かつ侵襲性の少ない革新的な制がん法開発研究の推進が喫緊の課題となっています。そのためには、新たな視点に基づいてがんの発生・進展に関わる内的・外的要因の作用メカニズム解明を目指す学術領域を開拓し、そこから生まれる成果を新規のがん予防・治療法開発に速やかに繋げていくことがきわめて重要であると考えます。

がんとは、宿主の制御から逸脱した細胞の異常な増殖であり、ホメオスタシスを無視した浸潤・転移の結果、宿主を蝕み死に追いやる疾病と考えられてきました。宿主と対峙するがんという理解のもと、これまでのがん研究は、細胞がん化の分子メカニズム解明を主体に進められ、その結果明らかにされたがんの基本的概念として、自らのゲノム内に存在する複数のがん遺伝子・がん抑制遺伝子に異常が蓄積することにより無制限の自律増殖能を獲得した細胞集団、という分子生物学的な姿が確立されました。

一方、細胞のがん化に必要な遺伝子異常の組み合わせはきわめて複雑かつ多様性に富み、速やかに治療に結びつくがんゲノムレベルでの「定型」的異常をそこに見出すことはできません。さらに、最終的にヒトを死に追いやるがんの成立には無限増殖能を獲得したがん細胞の誕生のみでは不十分であり、がん細胞を取り巻く特殊な宿主環境=「がん微小環境」が鍵を握ることが明らかになってきました。がん細胞は「がんのゆりかご」ともいえるがん微小環境の中で守られその数を増すことで、自らを育んできた宿主を死に至らしめる能力を獲得していくのです。がん微小環境はがん化したあるいはがん化しようとする細胞に必須の生存・増殖シグナルを与えるばかりでなく、がん(前駆)細胞がさらに高い悪性度を獲得するための遺伝子変異を加速度的に蓄積させる「発がんスパイラル」の場をも提供します。このがんの発生・悪性化をうながすがん微小環境の形成には、本来ならば宿主を守るために機能すべき免疫系が発がんの引き金となる内的・外的因子に応答して惹起する炎症の持続が深く関与していると考えられます。発がんプロセスの進行において宿主応答が重要な役割を担うという事実は、翻って、がん微小環境の形成阻止あるいは破壊ががんの抑制につながることを意味し、まったく新たな視点からのがん予防・治療原理を提示しています。

しかしながら、発がん因子と免疫系の相互作用による炎症の誘発機構ならびに誘発された炎症が発がんを促進する分子機構の多くは未解明のままであり、この分野での具体的な治療戦略は未だに描けていません。

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Copyright © 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換」