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本領域の概要

本領域は、感染という明確な外因を基盤とする「感染がん」の発症・進展における免疫・炎症の役割を分子から個体に至る各階層で明らかにするとともに、この過程を人為的に制御する革新的ながんの予防・治療原理を確立し、臨床の場へ速やかにトランスレートすることを目的とします。

これまでの研究の多くは、がん/炎症、免疫/炎症、あるいは免疫/がん、という二項目間の相互関係を追求するものであり、免疫/炎症/がんの三項目を巡るダイナミックな発がんプロセスを解明しようとする試みは、その構成要素の複雑さから、未だに明確な学問的コンセプトの提示には至っていません。そこで、この問題克服へのアプローチとして、本領域研究では炎症ならびに発がんの原因因子が同一である感染を基盤とするがん(=感染がん)に焦点を絞ります。解析のための単純化・モデル化がより容易な感染がんを対象とすることにより、発がん微生物に対する宿主免疫応答としての炎症が感染局所に作り出す「がん微小環境」ならびに「発がんスパイラル」の本態を分子レベルで解明することが可能になると同時に、感染—炎症—発がんプロセスの制御・遮断法開発を通して革新的ながんの予防・治療法確立に繋げることができると考えるからです。

代表的な感染がんには、ヘリコバクター・ピロリ菌による胃がん、 B 型肝炎ウイルス/ C 型肝炎ウイルスによる肝臓がん、パピローマウイルスによる子宮頸がん、 HTLV-1 による成人 T 細胞白血病などが挙げられます。これら感染がんは、ヒトの全がん死亡の約 20% を占め、その制圧は人類にとっても大きな福音となります。加えて、クローン病や潰瘍性大腸炎などの慢性炎症性腸疾患と大腸がん、慢性逆流性食道炎と食道がん、前立腺炎と前立腺がん、さらにタバコと肺がんやアスベストと胸膜中皮腫など、感染がん以外の多くのヒトがんにおいても、慢性炎症が発がんの重要な背景因子になっていると考えられます。本領域研究を通して明らかにされる「発がんにおける炎症の役割」は、感染がんにとどまらず広く一般のがんの理解と制圧に向けた重要な学問的糸口を与えるとともに、炎症を基盤とする多くのがんに適応可能な予防・治療原理の確立に大きく貢献することが期待されます。

本領域では感染がんの形成過程を、 1) 各々の発がん微生物に固有のがんタンパク質が感染細胞に自律的な増殖能を賦与しがん化に向かわせる過程、 2) 発がん微生物およびその感染細胞に対する宿主応答(炎症)を介して感染局所に形成されるがん微小環境が感染(がん前駆)細胞の生存と増殖を保証する過程、という2つの基本過程(粗過程)に分解した後、各々の粗過程の成立機構を分子から個体に至る各階層研究を通して解き明かすことにより、生体内における感染発がん形成プロセスの時間的・空間的ロードマップを作成 します (図)。加えて、 3) がん細胞と宿主間で構築される「がんのゆりかご」としてのがん微小環境内で、がん(前駆)細胞がより悪性度の高い細胞に変貌すべく複数の遺伝子変異を加速度的に獲得する連鎖的悪循環(=発がんスパイラル)に陥る分子機構の解明を進めます。これら原理解明の延長として、 4) 各々の発がん微生物に固有のがん遺伝子/がんタンパク質及びその下流シグナルを分子標的とする薬剤の開発、ならびに 5) がん微小環境におけるがん細胞と宿主免疫細胞間の病的な依存関係を崩し、免疫応答のベクトルをがんの保護・育成からがんの破壊へと 180 度変換させる「制がんベクトル変換」法の樹立、を通して従来とは作用点の全く異なる新たながんの予防・治療法開発につなげます。


図:ロードマップ・イメージ

本新学術領域研究は、我が国を代表するがん学者、感染症学者、免疫学者が「科学的にも社会的にも重要な意味を有するがんという疾患」のより本質的な理解と具体的な制圧に向けて集結し総合的な研究を押し進めることにより、宿主応答を組み込んだがんの発生・進展プロセスに関する新たなパラダイムを構築し、がんの未知なるアキレス腱を暴き出そうとするものです。本新領域形成の基盤となる腫瘍学、感染症学、免疫学はこれまで各々の学問体系の中で分子から個体に至る様々な階層での研究が展開され、それぞれの研究の文脈においてがんの理解も着実に深められてきました。しかしながら、微生物感染と発がん、炎症と発がん、がん微少環境、がん免疫、といった研究はこれまで個別の分野として研究が進められており、それらの分野を統合して新しい学術領域を創成・発展させる、という試みは現在に至までなされておらず、個別の研究から得られた結果をがんの包括的な理解に向けて横断的に統合する作業もこれまで意図的に進められたことはありませんでした。

本研究は、奇をてらった新学術研究領域の形成を目指すのではなく、宿主応答という動的な要素をがんの病因、病態さらには治療のコンテクストに組み込んだ統合的な腫瘍学を築くものであり、関連学問領域にも大きな波及効果をもたらすことが期待されます。

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Copyright © 文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換」